改悪草案


日本政府の憲法問題調査委員会は、3カ月間(1945年10月中旬から翌年1月中旬)、閣僚たちと頻繁に会議をし、天皇大権と民主主義の間に存在する溝を、どのような言葉で埋めることが出来るかと苦悩する。その間、各政党も競って独自の提案を出した。

GHQ民政局は、各党の新憲法草案を分析する。

「天皇は臣民の輔翼に依り憲法の条規に従い統治権を行う」と断言した進歩党の草案は、「全提案の中でも最も保守的」であり、「天皇大権がそのまま残っている」「個人の自由、民主的手続きにも欠けている」と非難された。

「天皇は統治権の総攬者なり」と言明した自由党案は、「進歩党案と五十歩百歩である」と一蹴された。


極悪人スターリンの手先


社会党案は、民政局の受けが良かった。

「人権は経済的保障とともに規定されていた。司法権の独立もある。国会は三分の二の多数決で憲法改正ができる。個人の尊重に基づいた政府の機構ができている。国会が国家権力の最高機関になる。市民的自由も完全に保障されている。天皇は政治権力から切り離されている」

「主権は人民にある」と宣言した共産党の提案は、「主権は人民にあり......天皇制は廃止する。基本的人権の完全実施、ことに経済的裏付けに注意を払っている」と褒められた。

共産党案がGHQにとっては最良のものであったが、共産党案であるが故に、そのようなことは口が裂けても言えない。日本共産党は、極悪人スターリン・ソ連の出店だとGHQは思っていた。

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しかし、アチソン政治顧問はマッカーサーに、「共産党案を除けば、社会党案だけが、天皇と人権について我々の意図に近いものです」と白状している。


GHQの落胆


市民団体もさまざまな草案を公表したが、民政局は、

⑴不当な捜索、押収から保護される権利の条項がない、犯罪の追及、刑の執行に際して個人の保護条項がない、

⑵婦人参政権、婦人の社会・経済・政治的平等の提案がない、

⑶地方自治の提唱もない、

と指摘した。

GHQの落胆が見える。日本国民の思想的盲点を見せられた思いであったのだろう。