blog7.jpgFrom:岡崎 匡史

研究室より

国境を通ると街並みは激変する。

道路もデコボコしていて、車酔いがする。治安も悪い。

アメリカからメキシコに入ると、経済格差を歴然と感じる。

アメリカは3000km以上にもわたりメキシコと国境を接している。そのため、不法移民に長年悩まされてきた。

トランプ大統領は、アメリカとメキシコの間に巨大な壁を建設すると公約している。はたして不法移民の取締りに効果があるのだろうか?

米国に不法入国するメキシコ人を「wetback」(ウェットバック)と呼ぶことがある。侮蔑語なので普段使ってはいけない。

そもそも「ウェットバック」とは、どういう意味なのか?

不法入国者の一部は、川を渡ってくる。そのとき、背中(back)が濡れる(wet)ので、ウェットバックという言葉が生まれた。

密入国する多くの人々は「リオ・グランデ河」(Rio Grande River)を渡る。全長3034kmのリオ・グランデ河は、コロラド州からメキシコ湾へ両国の国境線をまたがり悠然と流れている。

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リオ・グランデ河をめぐるアメリカとメキシコの争いは、いまに始まったものではない。

フーヴァーレポートでは「水戦争」(2016年2月号)と題して、世界の水事情を取りあげ、渇水のたびに縄張り争いに見舞われた歴史を紹介した。

川をめぐるライバル関係は、血まなぐさい紛争の歴史だ。

とくに、国と国をまたがる国際河川(International River)は、紛争の危険性をはらんでいる。地政学が反映され、紛争の表舞台となってきた。

上流・下流の理論

川を意識して見ることで、地政学的分析ができるようになる。

第41代米国司法長官ジャドソン・ハーモン(Judson Harmon・1846~1927)は、「上流国は自国の領土を流下する河川について絶対的な権限をもつ」と主張したことで有名。彼にちなんで「ハーモン・ドクトリン」(Harmon Doctrine)という考えが広まった。

ハーモン・ドクトリンの由来は、、、

19世紀後半、下流国に位置するメキシコは、上流国アメリカに対して、「リオ・グランデ河の水をメキシコの許可なく勝手に灌漑用に使うな」と強く抗議。

これに対して、米国司法長官のハーモンは「国際河川流域では上流国の権限は無制限に認められるべき」と応酬し、米国の権利を主張。

上流国のアメリカの水の使い方によって、下流国のメキシコは水量・水質、季節によって影響を受けるので不平不満がでる。

ところが、ハーモンの訴えはアメリカ政府自体にも受け入れられない。なぜなら、アメリカもカナダからの河川を利用しており、カナダからみればアメリカは下流国になってしまう。国際河川での思惑は、地政学的要因を強く反映する。

ともあれ、ハーモンの考えから導きだせることは、、、

「国家は領土に流れる水に対して絶対権利を保持する」

つまり、水紛争における上流国の理論を明確にした。

日本は幸運にも島国。

上流・下流とも日本国内。だから、水をめぐり亀裂が生じても戦争は起きない。日本の国内法で紛糾に対処することができる。

水が豊富な日本に住んでいると、国際河川をめぐる水の奪い合いを肌で実感することは難しいかもしれない。

でも、水をめぐる国際紛争から確実にいえることは、日本は「幸せな国」なのです。

ー岡崎 匡史

PS.

以下の文献を参考にさせて頂きました。

国連開発計画『国連開発計画(UNDP) 人間開発報告書2006』(国際協力出版会、2007年)

ヘザー・L・ビーチほか『国際水紛争事典―流域別データ分析と解決策』(アサヒビール、2003年)

村上雅博『水の世紀―貧困と紛争の平和的解決にむけて』(日本経済評論社、2003年)