救出作戦


ヘリコプターが「天国」で、攻め寄ってくる北の戦車は「地獄」。

米大使が無能なため、ついに最後のヘリコプターになってしまった。乗り損ねれば、敵軍に協力した売国奴として死刑であろう。

生と死を分けた最終便のヘリコプターがパタパタと頭上に近寄ってくる。これが最終便とは知らない数1000人のベトナム人たちは次は自分の番かと、生き延びられる期待と死の恐怖で息をひそめている。

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米軍ヘリに殺到するサイゴン市民


北の戦車の轟音が大使館で順番を待っているベトナム人たちの耳に入ってきた。全員、黒い波のように細いハシゴへ殺到する。ヘリコプターは、すぐ飛び立てるようにエンジン全開である。

すぐにカンヅメ状態の満員になり、数千人を残したまま飛び立とうとするが、ヘリコプターが動かない。乗れなかった男や女たちがヘリコプターにしがみついているため、飛び立てない。


死の枷



大使館の武官である2、3人の男が拳銃を抜き、ベトナム人たちの手や顔を足蹴りにして、ヘリコプターを「死の枷」から自由にしようとする。

米軍に協力したベトナム人たちは必死の形相で泣きわめいているが、足蹴りはさらに激しくなり、ベトナム人たちは遂に手を離した。手を離さなかったら撃ち殺されていただろう。

重いヘリコプターは飛び立っていった。天からのクモの糸が切れたようにアメリカ城が落ちた。土壇場でアメリカに裏切られたベトナム人の心情は私たちに想像もできない。


続く惨劇


アメリカの屈辱的な悲劇は、まだ終わらない。サイゴン沖に待機していた航空母艦の甲板にトンボがー匹ずつ止まるかのようにヘリコプターが着陸しはじめた。

瞬く間に甲板はヘリコプターで埋め尽くされ、着陸できる空間がなくなった。水兵たちがヘリコプターを甲板の縁から海へ落とし始めた。次から次へと溺れるかのごとく沈んでゆく。

それでもまだ甲板に十分な空間ができない。空中吊りのように待たされていたヘリコプターもついに燃料切れになり、米市民とベトナム人を乗せたまま海に不時着を強いられる。命からがらサイゴン陥落から逃げ出してきて、命船を目前にして自殺行為を強制されているような息の止まる惨劇であった。

死者•行方不明の数は報道されていない。


西鋭夫著『日米魂力戦』

第2章「アメリカの怨霊・ベトナム」−28