人道的な中国


動きの早い中国は日本政府を完璧に締めだし、国内問題として解決案をつくり、この5人をフィリピン経由で韓国へ亡命させ、「人道的な中国」を世界に宣伝した。お見事である。情報収集に駆け回っていたのは、外務省だ。

もし、中国警察が米国総領事館に無断で入り込み、亡命者を引きずり出そうとすれば、領事館を守っている米海兵隊に撃ち殺される。世界中の日本大使館や領事館に、なぜ日本人警察官や自衛官を配置しないのか。日本には優秀で勇気のある人材が大勢いるではないか。

アメリカのマスコミは、この脱北亡命家族のビデオをたびたび放映する。核兵器を保有しながらも北朝鮮の悲惨な生活状態を物語る事件として報道し、マスコミで活躍している論客たちは、日本の治外法権が侵されたという事実なぞには最初から興味を示さない。アメリカは、それほど日本を軽く見ているのかもしれない。

中国は強い、日本は弱い。中国が日本の顔を踏んづけても日本は抵抗しない、できない。それを世界が目撃した。日本は中国に陳謝を要求したが、無視されている。


体を張った韓国大使館員


瀋陽事件が体を冒す病原菌かのように日本を苦しめている時、日本人の意気地なさに追い打ちをかけるかのような事件がまた中国で勃発した。

韓国人が北京で「勇気」を世界に見せつけた。

藩陽事件から1ヵ月後の6月13日午前11時ごろ、北朝鮮人の父と息子がタクシーで北京にある韓国大使館領事部に乗りつけ、亡命を求めた。息子は館内の奥へ逃げ込んだ。

父親は中国人警備員2人に捕まり、館内から引きずり出され、正門の側にある詰め所に収容された。韓国大使館員1人が父親の連行を阻止しようとするが、押し切られる。韓国館員7、8人が中国側に父親を連行させまいと詰め所の前に座り込む。

事件発生を聞きつけたマスコミが殺到し、ビデオ・カメラが回り始めた。睨み合いが5時間続く。しびれを切らした中国警察は警察官十数人を送り込み、ワゴン車で父親を連行しようとしたが、韓国館員たちが体を張って抵抗する。

殴られ蹴られ、押し倒され、負傷しながらも抵抗をしたが、多数の中国警察官との取っ組み合いに負け、この父親は連行された。


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瀋陽事件の総括


7月4日、日本の外務省は瀋陽事件に関わった職員たちの処分を発表した。13名に1ヵ月の減給処分である(20%または10%)。この処分には『朝日新聞』(7月6日付)も驚き、社説で怒った。「見事にお役所的な総括で幕引きとしたいらしい」「経歴には傷がつかない。要するに形式的な処分に過ぎない」「外務省は失態の責任をほとんど総領事館にかぶせている」。

これからも、脱北亡命者は増加してゆく。餓死者すでに150万人以上の北朝鮮での生活がさらに悪化し、劣悪な状態になってゆく間、米国がどのような行動をとるのか、また中国がいかなる計算をしているのかで、怒濤のような難民の大移動が起こるかもしれない。

食べ物が豊富で、安全で、警戒心もなく、誰も銃を持っていなくて、「攻めてこられる」と夢にも思っていないニッポンは、武装難民の民族大移動の第一候補である。

日本はいずれ「国境を守るか、破られるか」の選択を強いられる。このような問題提起をすることが未だに「軍国主義」だと思われる日本である。


西鋭夫著『日米魂力戦』

第4章「国の意識」の違い -38