blog77.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

敗戦を迎えた日本の衛生状態は、悪化の一途を辿っていた。

日本国民は、目に見えないウィルスが引き起こす伝染病の恐怖に怯えている。
天然痘、ジフテリア、チフスなどが蔓延していた。

食糧不足に追い打ちをかけるかのように、アジア各国の戦地から帰還してきた復員兵600万人以上の健康管理をしなくてはならない。

DDT革命


日本の衛生環境を回復させることは、アメリカ兵にとっても早急に取り組むべき課題である。

GHQが使用する建物は、あらかじめ先遣隊がDDTを撒布していた。本格的な占領が始まると、GHQは警察官まで動員し、電車の車両や街頭、学校や仕事場などあらゆる場所にDDTを撒布した。数多くの日本国民が、DDT撒布を受けた。


まさに「DDT革命」が実行されたのである。

病気に罹る前に、病原菌を根絶することが予防医学の根幹である。

しかし、時代が変わればDDTの評価もがらっと変わる。

沈黙の春


米国の生物学者レイチェル・L・カーソンは、農薬で利用される化学物質の危険性を訴え、1962(昭和37)年に地球環境問題の先駆けとなる『沈黙の春』(Silent Spring)を世に問うた。


「いまではDDTの使われていないところはないといってよく、だれもが無害な常用薬のつもりでいる。DDTが人間には無害だという伝説がうまれたのは、はじめて使われたのが戦時中のしらみ退治で、兵隊、避難民、捕虜などにふりかけたことも影響している。大勢の人間がDDTに直接ふれたのに、なにも害がなかったので、無害だということになってしまったのだ。事実、粉末状のDDTならば、ふつうの炭水化物の塩素誘導体とちがって、皮膚から中へ入りにくい、だが、油に溶かしたDDTは、危険なことおびただしい。DDTをのみこめば、消化器官にゆっくりと浸透し、また肺に吸収されることもある。いちど体内に入ると、脂肪の多い器官―たとえば副腎、睾丸、甲状腺に大量に蓄積する(DDTは脂肪に溶解するため)。また、肝臓、腎臓、さらに腸をつつんで保護している大きな腸間膜の脂肪にも、かなりの量が蓄積される」


『沈黙の春』は、またたく間にベストセラーとなり、世界的なDDT禁止運動へと発展する。

日本では、1972(昭和47)年にDDTは有害物質とされ使用が禁止。生体に障害や有害な影響を引き起こす「内分泌攪乱物質」とされ、「環境ホルモン」の一種と認識されている。



ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・レイチェル・カーソン『沈黙の春』(新潮社、1987年)
・クロフォード・F・サムス『GHQサムス准将の改革』(桐書房、2007年)
・杉山章子『占領期の医療改革』(勁草書房、1995年)