blog82.jpgFrom:岡崎 匡史
研究室より

小林秀雄にはじめて出逢ったのは、国語の教科書であったと記憶している。
彼のどの作品を読んだのかも覚えていない。

ただ、「小林秀雄」という批評家の名前は、頭の片隅に残っていた。
理知的な文章を書く人だと。

講演録

あれから、何年が経ったのだろう。
小林秀雄に再会したのは、大学生のときだった。

恩師が授業で彼の肉声テープを紹介してくれた。
冷静で透徹した批評家というイメージが覆された。

べらんぼう調でありながら、文学や哲学や天文学など小難しい話でも引き込んでしまう話術。こんな語り口が出来るようになりたいと憧れた。

小林秀雄の講演録を全部聴きたい。でも、お金がない。
すべての講演録を購入してもらおうと思い立ち、大学の図書館にかけ合った。
1ヶ月後、願いを聞き入れてもらう。

毎日1時間半の通勤時間が、愉しくなった。
電車のなかで、小林秀雄を肉声を聴いていた。

経験とは何か?

それから、また何年が過ぎ去ったのだろう。
小林秀雄の講演録が文字化され、『学生との対話』として発刊された。

彼の議論は、いつも深く考えさせられる。
若いときは、経験が少ないから「経験」こそが重要で絶対だと考えてしまいがちだ。

しかし、小林秀雄は次のように教え諭す。

「経験、経験と一口に言うが、自分が本当に何を経験したかなんて、実はよくわかっていないものなんだよ。本当の経験の味わい、経験のリアリティなどというのは、自分でもよくわからないんだ・・・・本当に強烈な経験をした場合、なかなか知り得ないものです・・・・すぐにわかるような経験というのは、あまり大した経験ではないね。」

若き日の悩み、見えない先行き、悶々とする日々、そんな不安や鬱積が溜まっているあなたには、知の巨人・小林秀雄との対話をぜひ勧めてみたい。


ー岡崎 匡史

PS.以下の文献を参考にしました。
国民文化研究会編『学生との対話』(新潮社、2014年)