日本の苦悩


日本は富める国になった。経済大国と世界中で崇められている。「国力」というものは経済力だけではないのだが、今の日本には「カネの力」が国力だと見る考えが君臨している。しかし、巨大な「経済力」を司る知恵を、日本国民は持っているのだろうか。国民は国の将来を決める国策の形成に無力感を持っており、あたかも国民を無視したような政府・官僚の独走に絶望感にも似たいらだちを持ち、傍観している。

「富める国」と「弱い国民」との間にある深い亀裂が日本の苦悩であり、また真に富める国に成長していくために、日本国民が克服しなければならない困難な問題である。


カネをめぐる闘い


1945年(昭和20年)の夏、大日本帝国はアメリカに完敗し、総力を出し切った日本国民は黒い煙が立ち上がる廃墟の中に茫然と立ちすくみ、まもなく始まるであろう連合国による本土占領に恐れおののいていた。食べる物もなく、着る物もなく、住む所もなく、国民は「アメリカの民主主義」とか「新憲法」等について深く考える時間も、心の余裕もなかった。日本国民が生きることに必死になっている間、連合国の中心であったアメリカは、日本を「属国」にするための政策を着実に遂行していった。


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日本を「カネの亡者」に仕立て上げたのはアメリカだ。だが、アメリカはまさか日本がアメリカを脅かすほどの経済力を持つようになるとは考えてもみなかった。それゆえ、日本の経済が目覚ましい発展をし始めた1970年代からの日米間の摩擦は、「カネ」をめぐっての争いだ。アメリカは日本の政治を「政治」だとは思っていないので、それには口を出さないし、日本に「武力」「戦力」がないので軍事的にも恐れるに足らない。日本の経済力を抑えることにより、「日本占領」を続けられると思っている。


日米自動車戦争


アメリカから日本を観察していると、ハラハラする。一例を挙げただけで、アメリカが日本に対し、いかに怒り狂っているかがわかる。アメリカが自国産業のシンボルと思っている自動車について現状を見てみると、日本の自動車が広大なアメリカ大陸をわが物顔で走り回っている。日本の自動車はアメリカ市場の30%以上。すなわち、百台につき30台は日本の車なのだ。日本の車は評判もいい。アメリカで強い人気があり、そのうえ、高級車といわれているのも日本車だ。

日本ではアメリカ車をまず見ない。それもそのはず、アメリカの自動車は日本市場の1%。すなわち、100台につき1台だ。

最近、アメリカは日本に対して、車および部品をきちんと数を決めて買え、と強力に圧力をかけてきた。その背後には、この30%対1%という現状があるからだ。1995年12月に、輸入車が日本市場の10%になった、と新聞で大きく扱われていたが、この10%全部がアメリカ車ではない。



西鋭夫著『富国弱民ニッポン』

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