blog102.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

アニメーションの巨匠・宮﨑駿監督の作品『風立ちぬ』(2013年)を、ようやく観ました。

『風立ちぬ』は説明するまでもなく、零戦の設計者である堀越二郎(1903〜1982)の半生と小説家の堀辰雄(1904〜1953)の代表作を掛け合わせたオマージュである。

『風立ちぬ』では、機能美をそなえ洗練された飛行機の設計に熱意を燃やす堀越二郎の姿が描写された。

皇紀2600年


1937(昭和12)年、日本海軍は三菱重工業に対して海軍の主力戦闘機の製造を要請。堀越らの設計グループは、海軍からの不可能に近い性能要求に満たすべく、「日本人の血の通った飛行機」を造り上げ、1940(昭和15)年に制式決定された。


昭和15年は、神武天皇即位紀元の「皇紀2600年」にあたるので、末尾のゼロをとって「零戦」(零式艦上戦闘機)と名付けられた。

零戦は、一千馬力の小型エンジンを搭載し、徹底した軽量化を図り、空気抵抗が少なく、抜群の旋回性を誇った。日本の技術を結集し、熟練されたパイロットが操縦する零戦は、真珠湾攻撃・アジア太平洋戦争で大活躍し、アメリカ空軍からは「ゼロを避けろ」とまで怖れられた。

設計思想

当時の世界情勢は、日中戦争が泥沼化しており、戦局を打破するには航続力・速度・格闘力を満たす新型攻撃機の開発が早急の課題であった。

過酷な海軍の要求に応え、日本の戦闘機開発の遅れを取り戻すには、機体の重量を軽減せざるを得ない。零戦の「設計思想」は、攻撃が主であり、防御は従となる。

本来なら、パイロットの命を守るために防弾鋼鉄を使用するはず。だが、零戦は20ミリ口径の機銃をとりつけ戦闘力を高め、なおかつ軽量化を突き詰めた小回りがきく機体である。洗練された優雅な機体だが、攻撃と長い航続力を重視したため防御が疎かになる。

ヘル・キャット

しかし、一機の零戦がアラスカ・アリューシャン列島のアクタン島の沼地に不時着し、米軍はその機体を回収し、徹底的に調査を行い、零戦の弱点を探しあてた。

ガソリンタンクとパイロットの座席が共に薄いアルミ製なので、ここをピンポイントで狙えば、容易に零戦を迎撃することができる、と読んだ。

アメリカ海軍は1943(昭和18)年9月、零戦に対抗するためグラマン社が製作したF6F(通称「ヘル・キャット」)を導入する。ヘルキャットのガソリンタンクは分厚い生ゴム、操縦席は厚い鋼鉄で覆われていた。その分、機体は重くなるため二千馬力のエンジンが搭載された。

アメリカの戦闘機が改良を重ね、攻撃力が高まり、生産量で圧倒されてくると、零戦もいずれ被弾する。

資源が豊富な「持てる国・アメリカ」の造った「ヘルキャット」。資源が少ない「持たざる国・日本」の造った「零戦」。二つの戦闘機を通して日米の文化が浮き彫りになる。



ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・堀越二郎『零戦--その誕生と栄光の記録』(角川文庫、2012年)
・西鋭夫『國破れてマッカーサー』(中央公論社、1998年)
・羽入辰郎『支配と服従の倫理学』(ミネルヴァ書房、2009年)
・片山杜秀『未完のファシズム』(新潮選書、2012年)