癒えない傷

毎年、政府は国民に向かって、「今年のクリスマスまでには全兵士が無事に帰国するであろう」と約束したのだが、いつまで待ってもそのクリスマスは来ず、ついには土壇場でサイゴンのアメリカ大使館の屋上からアメリカの最後のへリコプターがぶざまに逃げるさまが全米のテレビに流された時、誇り高い国民の心理状態はいかなるものであったろうか。痛烈なショックであったことは間違いない。


アメリカ軍撤退後、ものの数週間もしないうちに、あれほど血と涙を流したヴェトナム戦争がアメリカ国内のマスコミから完全に、また不自然に姿を消してしまった。


だが、深い心の傷は残り、いまだに癒せない後遺症としてアメリカ社会の内部でうずいている。


平和教育

日本人は"争い"に対して危険なまでのアレルギー症状を強めてきた。それは、戦後教育で「無防備」が自衛の最良手段とする日本式平和主義を徹底的に教えたからだ。私自身、その戦後教育を受けた一人である。


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その平和主義教育が悪いと言っているのではない。平和の大切さを教えるのは最も重要なことである。


しかし、現在の世界情勢は第2次大戦直後と比べ、はるかに危険なものとなっているにもかかわらず、日本国民はいつまでも天下太平が続くと身勝手に考え、「国防」「自衛」「軍事同盟」「愛国心」という言葉が巷に出てくると、極度に神経過敏になり、あたかも今すぐに戦争が始まるのではないかと騷ぎ出す。「安全保障」イコール「軍国主義」だと思っている。


「戦後日本」の未来

この日本国民の精神状態は、18世紀の初め以来、武力による西欧のアジア進出が否定できないほど明らかになってきているのに、それに目をつむり、黙殺して逃げ切ろうとしたが、結局は身の破滅を招いた徳川幕府の精神状態と同じである。


日本はいつまで「鎖国」を続けるつもりなのか。国防に関するすべての討論はタブー。「軍備」という単語は日本語の中から抹殺され、もう存在しない。ここで強調しておかねばならぬことは、「平和教育」と「国防教育」は共存できるということだ。


「戦後日本」という都合のよいタイトルをつけて、日本は経済復興に猛進してきた。この分野において、日本人の努力と能力は目を見張るものがあった。だが、タイトルのないこれからの新時代で、物質的に富めるが、事実上、無防備の日本の未来を日本国民はどうするつもりなのか。永久にアメリカ兵を雇うのか。




西鋭夫著『富国弱民ニッポン』
第4章 富国日本の現状−22