トレイナー・ペーパー


フーヴァー研究所でアメリカで著名な教育学者のポール・ハナ博士を紹介され、親しくなった。ハナ博士が「ここ、フーヴァーの公文書館にトレイナー・ぺーパーがあるが、誰も使っていないんだ。なぜかなあ」と私に尋ねられた。灯台下宿しとはこのことだ。誰も使っていないのは、誰も知らなかったからだ。

ジョセフ・トレイナーは、日本占領でマッカーサーの本部(GHQ)の「教育課」に所属し、日本の教育改革に携わった男だ。彼は当時GHQでの教育改革に関し、アメリカ側と日本政府側の文書を集めて保管していた。

「トレイナー・ぺーパー」は、一言でいえば「宝庫」だ。私はアメリカの対日占領政策が戦後日本の姿を決定的にしたと考えているし、そして「政治改革」と「教育改革」の関係を調査していたので、トレイナー・ペーパーは非常に貴重な「発見」だった。


博士論文


原稿を書き上げるのには三ヶ年かかった。英文で900ページ近くあった。タイプライターで書いたものだ(当時ワープロはまだ一般に普及していなかった)。まず、マイヤーズ博士に見せた。彼はニタッと笑って一言、「厚いな」。

この原稿はハナ博士、それから(名前は挙げないが)、プリンストン大学の日本研究で著名な教授、スタンフォード大学教授、エール大学教授、フーヴァー研究所員、そして、マイヤーズ博士によって同時に読まれ検討された。全員一致で「出版」が決定した。

この方式を「レフリー・システム」という。第三者の判断を仰ぎ、原稿の良し悪し、出版する価値あり、なしを決定する客観的な制度だ。これはアメリカの学界では当然のことであり、学術論文の判定にも使用される。


『Unconditional Democracy』


この本のタイトルは『Unconditional Democracy』(本書は平成3年10月、広池学園出版部からも刊行された)で、日本の無条件降伏(Unconditional Surrender)にかけたものだ。「有無を言わさず民主主義化された」という強い皮肉を含んだタイトルだ。


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アメリカでは、このタイトルだけでも有名になった本だ。この本は、アメリカで公開された機密公文書を分析して書いた最初の本で、出版されたのは1981年。

その直後から、日本からもアメリカ国内からも、学者たちから電話や手紙がたくさんあった。占領関係の資料についての「教えを請う」というものだった。



西鋭夫著『富国弱民ニッポン』

結び/後記 富国日本の現状−16