直訴状の行方


豊道は、6歳で僧籍に入り、東京浅草華徳院住職となる。天台宗高僧になるが、日本書道界への功績は極めて多大である。東京教育大学でも教鞭をとる。昭和42年文化功労者。

ルーミスは、豊道の請願書を初等・中等教育課に回した。

初等教育担当官のポーリーン・ジェイディは、彼女のオフィスで働く日本人スタッフに聞いた後、書道は彼等の「ペンマンシップや芸術的才能を上達させるのと何等関係はないと言った」とルーミスに答えた。

これらの日本人はジェイディに、豊道の意見には根拠がないと付け加えた。


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書道と人格形成


豊道の直訴状を受けた後、中等教育担当官のモンタ・L・オズボーンは、少なくとも6回、豊道たちと会った。彼等の主張が正しいことを示す証拠を求めたところ、彼等は「科学的証拠」なるものを提示した。

「書道は完全な人格養成に貢献し、立身出世に役立つ。その証拠は――嘗て、ある男に、A、B、Cの3人の息子がいた。Aは書道に熱心であり、Bはそれほど熱心ではないが、ある程度学んだ。Cは完全に無視した。Aは東京大学教授になり、Bはふつうの学校教師、Cは取るに足らぬ仕事をする労働者になった」

「この例は、これら書道家団体が多かれ少なかれ抱いているボケッとした考え方をよく描き出している」

とオズボーンは手厳しく皮肉った。


ニージェント局長の判断


ルーミス教育部長は、書道をどう扱ったらよいか決断できないので、上司のニュージェント局長の判断を仰いだ。

ニュージェントは、

「学校教育のカリキュラムにおける書道の問題は、日本人が決める問題である。我々が、ああしろ、こうしろと圧力をかけてはならない。我々は、書道作振会に援助も奨励も与えない。従って、彼等の請願には回答を出さない。この問題について、文部省にも我々の意見は出さない。もし、日本人が書道を幼稚園で必須科目として週に10時間教えたいのならば、そうしてもよい。無論、彼等がもっと良識を働かせると私は信じてはいるが。日本の文化的背景に密接にかかわる他の領域でもそうだが、感情が付き纒い易いこのような問題には、我々は無闇に干渉しないようにするし、また、日本教育改革に、我々の実用的、物質主義的基盤だけから判断を下さないようにする」

と答えた。