疑惑をはねのける男


2016年10月、大統領選を1ヶ月先に控えた時期に、トランプ候補者のセクハラ疑惑がマスコミを賑わしました。これを仕掛けたのは間違いなくヒラリー陣営です。トランプ候補者による「お前の旦那(元米国大統領ビル・クリントン)はレイプ魔か」などといった非難に対する反撃でしょう。選挙戦特有の誹謗中傷のやり合いです。


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セクハラの真相は分かりません。しかし、トランプ候補者はほぼ無傷でした。いくつか理由があります。一つは、彼が日頃から「自分は聖人でない」と人々に言ってきたこと。些細なことですが、セクハラ疑惑で失脚する人々は、自分を完璧で「高貴な人」だと、自他ともに主張してきた人です。

トランプ候補者は最初から「高貴」というイメージがひとつもなかった。良いイメージを作る必要性さえ感じていなかったのかもしれない。生身の人間力に惹かれて、誰もが好きになる。ファンになる。そんな男でした。


マスコミ戦略


もう一つは、彼の天才的なマスコミ戦略でしょう。トランプ候補者が女性を蔑視したとされる証拠(録音テープ)が出てきましたが、1週間も待たないうちにニュースから消えました。

代わりに出てきたのが、ヒラリー氏によるEメール問題です。国務長官時代、自宅にて極秘メールをやり取りしていた問題です。これにより、トランプ氏のセクハラ疑惑はあっという間に吹っ飛んだ。

彼のマスコミ戦略は誹謗中傷合戦にのみ使われたわけではありません。演説の仕方や見せ方、さらには言葉の選択も考え抜かれていた。彼は難しい言葉で語らない。一般の人々が使う日常的な表現で、大統領としての方針や政策を、そしてアメリカの将来像を語ってみせたわけです。彼の存在感は、大統領選が本格化する1年も前からオーラのように溢れ出していました。


不正への厳しい目



一方、不利になりそうな事柄については、マスコミも活用して徹底的に追求しました。その代表例が「不正選挙」についての指摘です。不正選挙は、2000年の共和党ジョージ・ブッシュ vs. 民主党アル・ゴアの選挙のときも問題になりました。選挙結果を巡ってデモ活動が行われたほか、不法移民が投票しているのではないかという疑惑も報じられました。得票数の数え直しも行われました。

トランプ陣営が心配していたのは、不法移民、すなわちメキシコとテキサスの国境を不法に渡ってきて、彼らが投票することでした。1人の不法移民が、場所を変えて何度も投票する可能性もあります。これを斡旋する業者もおります。ハッカー全盛期の現代ですから、投票をコンピューターから行うことにしても、大きな問題が生じるでしょう。

不正選挙を防ぐための組織力はトランプ陣営にはありませんでした。そこで彼は、「応援してくれる皆さん、投票場へ行ったらそこから帰らないで様子を見て欲しい。誰かが何かを操作する可能性があるのさ。僕のお願いを聞いてくれるかい」と呼びかけました。弱みを自らさらけ出して、有権者に協力を求める候補者など見たことがありません。国民はまたしてもトランプ候補者に気持ちを掴まれた。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年11月上旬号「大統領選挙速報」− 2