blog187.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

灰燼くすぶる占領下の日本、国策に迎合した研究機関や神道系の講座は、GHQの有無を言わさぬ圧力の前に、自己改革を促されていた。

東京帝国大学では、戦前に神道と日本思想史の講座を開いていた。しかし、戦後、これらの講座は全て廃止される。

大学改革を促すGHQとしては、憂慮すべき問題があった。それは、「学問の自由」を侵害していると批判を受けることだ。

GHQは東京帝大に対して、自主的に講座を廃止するように文学部学部長の戸田貞三(1887〜1955)に伝え、神道学講座を担当していた宮地直一教授(1886〜1949)を停年まで現職におくという条件で神道学講座を廃止させていた。

南原繁


その一方で、帝大総長の南原繁(なんばら しげる・1889〜1974)は、神道と日本思想史講座で浮いた資金を利用してキリスト教講座の設置を提案した。南原は学生時代から内村鑑三の「無教会主義」の影響を受けたクリスチャンであり、戦中は終戦工作を試みたことから、GHQからは日本の自由主義者と思われていた。

南原は1946(昭和21)年2月11日の紀元節に「新日本文化の創造」という演説を行う。

南原総長は、日本のルネッサンスと宗教改革を実行するには、「人間を超えた超主観的な絶対精神―『神の発見』と、それによる自己克服がなされなければならない」「宗教に代うるには同じく宗教をもってすべく、ここに新たに普遍人類的なる世界宗教の対立を、いまこそ国民としてまじめに遂行すべき」と表明していた。

「神の発見」「普遍人類的なる世界宗教」とは、疑いなくキリスト教のことである。

大蔵省の反対


南原はGHQに、「提案している講座はかつての神道講座に代わるものではなく、完全に独立した独自のもの」であり、講座設置に必要な資金は、「個人的には民間の寄付の方が望ましい」「そうすれば、資金は早く集まり、また、政府との絡みから自由になれますので、これは良い考え」であると進言した。

しかし、文部省はキリスト教講座を設置する意思はない。その上、大蔵省は「神道講座は右翼の圧力で作られたので、当然廃止されるべきであり、その予算は国に返還されるべきだ。東京帝大により他の目的に使われてはならない」と通知。 

大蔵省が指摘したように、戦前、文部省は神道講座の充実を東京帝国大学に提案していた。帝大側は、この意に沿って、形式上自発的に神道講座を設立した経緯があった。

南原の提案したキリスト教講座設置案は、大蔵省の反対、さらにはGHQ自身が命令した政教分離に矛盾をきたしていたため実現に至らなかった。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・東京大学百年史編纂委員会編『東京大学百年史 通史二』(東京大学出版会、1985年)
・東京大学百年史編纂委員会編『東京大学百年史 部局史一』(東京大学出版会、1986年)
・新宗連調査室編『戦後宗教回想録』(PL出版社、1963年)
・南原繁『新装版 文化と国家』(東京大学出版会、2007年)
・西鋭夫『國破れてマッカーサー』(中央公論社、1998年)