病気にもなれない


お金もなく、仕事もなく、そして運悪く病気になってしまったときは、どうすれば良いのでしょうか。

アメリカでは保険に入っていないとほとんどの場合、お医者さんに見てもらえません。病院で最初に聞かれるのは保険の番号です。ただし、救急車で運ばれてきた場合は例外です。保険の有無にかかわらず、お医者は診なきゃいけない。法律で決まっています。


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少し、私の娘のことをお話ししましょう。娘が12、3歳の頃、呼吸がし難いということで目が覚め、妻が心配してスタンフォードの大学病院に連絡し、救急車に来てもらいました。宿舎はスタンフォード内にありましたから、救急車といっても目と鼻の先のような距離でしたので、5分ほどで病院に到着しました。


入院一泊で260万円


お医者に診てもらいましたが、「大きな病気ではないですね」とのこと。そして「ここは、お子さんを見ないですから。子供用の病院がすぐ向こうに、キャンパスの向こう側にありますから、そこに行ってください」と言われました。そしてまた救急車に乗り、すぐに病院に向かいました。診察結果は、ちょっと喉が腫れている程度でしたが、真夜中でしたのでその日は病院に一泊しました。

2、3日後、病院から請求書が来ました。260万円でした。救急車をほんの数分ですが2回走らせ、薬もなしの入院一泊です。すぐにでもというので最初に数十万払った後は、医療費をめぐっての病院側との折衝が始まりました。

結果から言うと、半額ぐらいになりましたが、そもそも医療費をバナナの叩き売りのように扱うことに大きな違和感を感じました。


オバマケアの内実


オバマ大統領は米国内の医療費や保険料のことを知らない訳はありません。それゆえ、貧しい人でも加入できる保険、通称「オバマケア」というものを作りました。

しかしこれを実際に運営しようと思ったところ、中産階級の白人から大きな反発がありました。オバマケアとは、お金のあるところからできるだけお金を搾り取り、そのお金を貧しい人たちの保険に回そうという発想です。この反発は一時的なものではなく、いずれ米国社会全体を巻き込む大きな反対運動になるのではないか、と私は思っています。

その一方で、仮にこのオバマケアが躓くと、貧しい人たちはこれまで同様、保険に入ることができず、病院で診てもらえなくなります。アメリカの平均寿命は日本より低いことが知られています。しかし、アメリカの白人と日本人の平均寿命はほぼ同じです。ではなぜ平均寿命が低くなるのか。貧しい人たちが病院にかかれず、早くに亡くなってしまうのです。これは「病院に行かせない」という暴力です。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年1月上旬号「アメリカの貧困」− 7